特殊相対論の本は,いまでも多くがマイケルソン・モーリーの実験を紹介してエーテルが否定されていった歴史を記している.しかしいまやQED(量子電磁力学)の成功をはじめとして,ローレンツ群(ポアンカレ群)の表現としての素粒子の分類,標準模型など,特…
メビウスの帯は非自明束だが,そのホイットニー和束は自明束である.その理由を生成AIに聞いてみると,次のような感じの答が返ってきた. 1次元の実直線上で1から-1へ移動するとき,必ず0を通る.これはメビウスの帯が非自明束であることを意味する.一方,2…
前回に続き,今度は指数関数の微分を行う. なので となる.これ以上は簡単にならないが,和を積分に直すことができる.まず と の和を, と の和に直す. と書き直す. は独立なのでどちらも上限は無限大である.ここでベータ関数 を使って積分の形にすると…
が の関数 のとき, 導関数を で表すと である. では が行列 で,各成分が の関数であるとき としてしまいそうだが, 結論からいうとすべて誤りである.誤りの原因は,行列が交換するとは限らないことにある. これに注意して微分を行う. これから,正の に対…
非可換アノマリーとはゲージ場の軸性カレントの発散で のことである.これを藤川の方法で計算することがいくつかの本で紹介されている.例えば 中原幹夫 (著), 久保田真吾, 佐久間一浩, 中原幹夫, 綿村尚毅 (訳), 理論物理学のための幾何学とトポロジー II …
カレントの同時刻交換関係を計算するときに便利な公式フェルミオンの場合 はディラックガンマ行列, はSU(N)行列を表す. 出典は G.A Christos, Phys. Rep. 116, 251 (1984) P260.ボソンの場合 は の正準共役. 出典は R. Jackiw, Field theoretic investigatio…
ワインバーグの場の量子論に登場するのだが, をグラスマン数とするとき,その外微分は になるらしい.つまり微分とグラスマン数は反交換する.「らしい」と書いたのは,はっきりとこう書かれているのではなく,こう考えないと矛盾する式が出てくるからであ…
Wess-Zumino 条件の交換関係で悩むところがあるのでメモ.問題は のときに となることを示すことである.(追記:この式は,例えばワインバーグ 場の量子論 第4巻に(これより複雑な形で)みられる.)交換関係を計算すると となる.このうち,右辺第3項と第…
演算子 と のそれぞれの交換関係,反交換がわかっているときに,交換関係 を計算したいときがある.演算子がすべてGrassmann偶 (G偶) のときは が成り立つ.すなわち1個1個の交換関係を足し上げればよい. 演算子がすべてGrassmann奇 (G奇) の場合, が奇数…
数式を多用した文章を書いていると,pdf 上の数式などをコピペしてLaTeX 形式に変換できれば非常に便利である.最近はAIを利用してこのようなことができるソフトが増えてきている.いくつか試してみたが,一番認識率が高いのは Mathpix である.当初は無料で…
量子力学の運動量演算子を と暗記していると,時として間違うことがある.座標 の固有状態(状態ベクトル) に を作用させると としてしまいそうだが、これは間違いである.正しくは である.理由がわからなければ,状態ベクトルではなく波動関数に置き換え…
ゲージ場の経路積分量子化で使われるファデエフ-ポポフの方法は一体何をやっているのかを,簡単な積分で考えてみる. この積分は発散している.そこで次の変数変換を行う. 発散は 積分から生ずる.このように収束する積分と発散する積分を(物理的な意味づ…
ゲージ場のエネルギー運動量テンソル(ユークリッド計量) を変形して となることを示す.以下,ゲージ群の添字 は略す.キーになる公式は である.これを使うと が得られる.すなわち である.よって となるが,最後の式の最後の2項は が について対称であ…
昨年の冬にグリフィス電磁気学の第5版が発売された.目次をみるかぎり,第4版との違いはわずかである.削除された章や節はなく,追加された節は "4.3.4 The Crystal Ambiguity", "11.2 Power Radiated by a Point Charge", "11.3 The Radiation Reaction" で…
洋書で定評のある線形代数の本,Linear Algebra Done Right の第4版がpdfのオープンアクセスになった.linear.axler.net 線形代数の本は行列や行列式の計算が主体のものと,抽象的なベクトル空間の記述が主体のものとがあるが,この本は後者に属する.
熱力学において,熱は状態量ではなく状態の経路に依存する.数学では熱はパフ形式(1形式)で表される.パフ形式は積分因子が存在すれば全微分の形にすることができ,全微分の形になれば状態の経路に依存しない,状態量が定義できる.熱力学では積分因子が絶…
系に流入する熱を , 系になされる仕事を とすると,系の内部エネルギーの変化 は であり,これは可逆変化でも不可逆変化でもなりたつ.これを温度 , エントロピー , 圧力 , 体積 で表すと であり,この式も可逆変化でも不可逆変化でもなりたつ.ところが は…
ケンブリッジ大学出版は学術雑誌だけでなく理数系の専門書も数多く出版しているのだが,専門書のオープンアクセス化が進みつつある.2023年8月20日現在,Physics and Astronomy の分野で45冊がオープンアクセスとなっている.タイトルを眺めてみると素粒子物…
運動量演算子といえば(1次元ならば)即座に と書き下すわけであるが,微妙な問題を含んでいる。位置と運動量の交換関係 の両辺を位置の固有状態で挟むと となり,左辺は ,右辺は により になる.この式を満たす は, を任意定数として である.右辺第2項は…
昨年9月にZettiliの量子力学第3版が出たが,5カ月経った今でも紙形式しか発売されていない.1000ページもある本を持ち歩きたい人はいないだろう.何で電子版を出さないのだろうか? ところで量子コンピュータ関連の定番書籍と言えば,いまだに2000年に出た N…
Zettili(ゼッティリと読む?)の量子力学と言えば定評のあるテキストであるが,9月に第3版が出ていた。第2版は約670ページであったが,第3版は1000ページ超えである.最近の量子力学の本は量子情報に関するトピックが増えてきているが,目次を見る限り第3版…
ワインバーグ量子力学講義(岡村浩訳,ちくま学芸文庫)を買ってみた。数式の添え字が微小すぎて,とても読みづらい。数式を多用する理工学書は文庫サイズにすべきでないと改めて感じた。内容がいいだけに,このままにしておくのは大変惜しい。普通の専門書…
グリフィスのテキストでは伝導電流も変位電流も磁場をつくるような書き方だが,太田浩一氏の「電磁気学の基礎I」では変位電流は磁場をつくらないことを強調している.微分型のマクスウェル方程式を見るかぎり,磁場をつくるのは電流密度だけである.積分型の…
ストークスの定理(回転定理)によれば,閉曲線を囲む面は平面である必要はなく,どのような曲面であってもよい.前回は平面としたが,今度は図のような円筒を考える.平面を変形したものなので,円筒左端の面は「閉じて」おり,円筒右側の面は(図では見え…
グリフィスの電磁気学の本に面白い問題があった.元ネタは D.J. グリフィス(著),溝田節生・坂田英明・二国徹郎・徳永英司(訳)「グリフィス 電磁気学 I」,丸善出版(2019) の問題7.35である. アンペール・マクスウェルの法則 によれば,電流 があれば…
単極誘導(ファラデーディスク)は深入りすると泥沼にはまる危険がある.詳しくはファラデーのパラドックスを参照.問題設定はいくつかあるが,ここでは 砂川重信,「電磁気学」物理テキストシリーズ,岩波書店(1987) に掲載されているものを挙げる. 磁石…
摩擦のない斜面に物体を置き,図のように水平方向に力 を加える.すると物体は斜面に沿って上昇する.物体を上方向に持ち上げたのは誰だろうか? 一見すると力 は水平方向であるから鉛直方向に仕事をしない.斜面は摩擦がないので垂直抗力 は斜面に垂直であ…
アブラハム-ミンコフスキー論争とは,物質中の電磁場の運動量をどのように定義すべきかという論争.100年以上にわたって明確な結論は出ていない.以下のメモは David J. Griffiths, "Resource Letter EM-1: Electromagnetic Momentum", Am. J. Phys. 80, 7 (…
加速運動する荷電粒子が電磁波を放射するとエネルギーを失う.荷電粒子はエネルギーを失うことで運動が変化する.このときに荷電粒子が受ける力が輻射の反作用と呼ばれるもので,この力を含む運動方程式はローレンツ-アブラハムの式(アブラハム-ローレンツ…
電磁波が横波であることは高校生でも知っていることである.ところが大学で導波管を伝わる電磁波を学ぶと混乱が起きる.TE波は磁場が「縦波成分」をもち,TM波は電場が「縦波成分」をもつ.導波管内部のような特別な空間では電磁波も縦波になるのか?手元に…