グリフィス 電磁気学 第5版

昨年の冬にグリフィス電磁気学の第5版が発売された.目次をみるかぎり,第4版との違いはわずかである.削除された章や節はなく,追加された節は "4.3.4 The Crystal Ambiguity", "11.2 Power Radiated by a Point Charge", "11.3 The Radiation Reaction" で…

Linear Algebra Done Right

洋書で定評のある線形代数の本,Linear Algebra Done Right の第4版がpdfのオープンアクセスになった.linear.axler.net 線形代数の本は行列や行列式の計算が主体のものと,抽象的なベクトル空間の記述が主体のものとがあるが,この本は後者に属する.

カラテオドリの原理と熱力学

熱力学において,熱は状態量ではなく状態の経路に依存する.数学では熱はパフ形式(1形式)で表される.パフ形式は積分因子が存在すれば全微分の形にすることができ,全微分の形になれば状態の経路に依存しない,状態量が定義できる.熱力学では積分因子が絶…

熱力学のメモ

系に流入する熱を , 系になされる仕事を とすると,系の内部エネルギーの変化 は であり,これは可逆変化でも不可逆変化でもなりたつ.これを温度 , エントロピー , 圧力 , 体積 で表すと であり,この式も可逆変化でも不可逆変化でもなりたつ.ところが は…

ケンブリッジ大学出版のオープンアクセス

ケンブリッジ大学出版は学術雑誌だけでなく理数系の専門書も数多く出版しているのだが,専門書のオープンアクセス化が進みつつある.2023年8月20日現在,Physics and Astronomy の分野で45冊がオープンアクセスとなっている.タイトルを眺めてみると素粒子物…

運動量演算子

運動量演算子といえば(1次元ならば)即座に と書き下すわけであるが,微妙な問題を含んでいる。位置と運動量の交換関係 の両辺を位置の固有状態で挟むと となり,左辺は ,右辺は により になる.この式を満たす は, を任意定数として である.右辺第2項は…

そろそろ量子計算の新たな定番本を

昨年9月にZettiliの量子力学第3版が出たが,5カ月経った今でも紙形式しか発売されていない.1000ページもある本を持ち歩きたい人はいないだろう.何で電子版を出さないのだろうか? ところで量子コンピュータ関連の定番書籍と言えば,いまだに2000年に出た N…

Zettili 量子力学 第3版

Zettili(ゼッティリと読む?)の量子力学と言えば定評のあるテキストであるが,9月に第3版が出ていた。第2版は約670ページであったが,第3版は1000ページ超えである.最近の量子力学の本は量子情報に関するトピックが増えてきているが,目次を見る限り第3版…

ワインバーグ量子力学講義

ワインバーグ量子力学講義(岡村浩訳,ちくま学芸文庫)を買ってみた。数式の添え字が微小すぎて,とても読みづらい。数式を多用する理工学書は文庫サイズにすべきでないと改めて感じた。内容がいいだけに,このままにしておくのは大変惜しい。普通の専門書…

誰が磁場をつくったのか?(その3)

グリフィスのテキストでは伝導電流も変位電流も磁場をつくるような書き方だが,太田浩一氏の「電磁気学の基礎I」では変位電流は磁場をつくらないことを強調している.微分型のマクスウェル方程式を見るかぎり,磁場をつくるのは電流密度だけである.積分型の…

誰が磁場をつくったのか?(その2)

ストークスの定理(回転定理)によれば,閉曲線を囲む面は平面である必要はなく,どのような曲面であってもよい.前回は平面としたが,今度は図のような円筒を考える.平面を変形したものなので,円筒左端の面は「閉じて」おり,円筒右側の面は(図では見え…

誰が磁場をつくったのか?(その1)

グリフィスの電磁気学の本に面白い問題があった.元ネタは D.J. グリフィス(著),溝田節生・坂田英明・二国徹郎・徳永英司(訳)「グリフィス 電磁気学 I」,丸善出版(2019) の問題7.35である. アンペール・マクスウェルの法則 によれば,電流 があれば…

単極誘導

単極誘導(ファラデーディスク)は深入りすると泥沼にはまる危険がある.詳しくはファラデーのパラドックスを参照.問題設定はいくつかあるが,ここでは 砂川重信,「電磁気学」物理テキストシリーズ,岩波書店(1987) に掲載されているものを挙げる. 磁石…

誰が仕事をしたのか

摩擦のない斜面に物体を置き,図のように水平方向に力 を加える.すると物体は斜面に沿って上昇する.物体を上方向に持ち上げたのは誰だろうか? 一見すると力 は水平方向であるから鉛直方向に仕事をしない.斜面は摩擦がないので垂直抗力 は斜面に垂直であ…

アブラハム-ミンコフスキー論争(メモ)

アブラハム-ミンコフスキー論争とは,物質中の電磁場の運動量をどのように定義すべきかという論争.100年以上にわたって明確な結論は出ていない.以下のメモは David J. Griffiths, "Resource Letter EM-1: Electromagnetic Momentum", Am. J. Phys. 80, 7 (…

輻射の反作用(放射の反作用)事前加速問題(メモ)

加速運動する荷電粒子が電磁波を放射するとエネルギーを失う.荷電粒子はエネルギーを失うことで運動が変化する.このときに荷電粒子が受ける力が輻射の反作用と呼ばれるもので,この力を含む運動方程式はローレンツ-アブラハムの式(アブラハム-ローレンツ…

導波管

電磁波が横波であることは高校生でも知っていることである.ところが大学で導波管を伝わる電磁波を学ぶと混乱が起きる.TE波は磁場が「縦波成分」をもち,TM波は電場が「縦波成分」をもつ.導波管内部のような特別な空間では電磁波も縦波になるのか?手元に…

静電場の回転

電荷密度 がつくる静電場は で与えられる.静電場なのでこの回転は0でなければならない. 簡単のため で考えると が0にならなければならない. だから0になるというのは早計で,これは演算子なので注意深く調べる必要がある. のときは成分ごとに計算すれば0…

導体円板上の電荷分布

導体に電荷を与えると,導体表面にのみ電荷が分布する.静電気学の初め頃に学ぶことである.しかしこれは3次元の導体について言えることであって,2次元導体や1次元導体では正しくない.2次元の導体円板に点電荷を加えていくと,点電荷が円板上でどのように…

本の体裁

大学初年級の物理の本はなぜか体裁(見栄え)の悪いものが多い.英語の本と比べるとよくわかる.わかりやすく書かれているものでも,体裁が悪いために読みづらくなっているものもある.個人的な印象ではスペース(空白部分)の足りなさと図の小ささ(少なさ…

静電気学の百科事典?

静電気学の集大成といえるような本が存在することを最近知った. E. Durand, Electrostatique, Vol I, II, III, Masson et Cie, 1964, 1966 全3巻で計1500ページ以上ある.ジャクソンの電磁気学(日本語版)でも1200ページ足らずなので,静電気学だけでこの…

ベクトル面積

ベクトル面積(vector area)という量がある.英語版Wikipediaによると,面積分によって と定義される. は面上の単位法線ベクトル.日本語Wikipediaは現時点では存在しない. 閉曲面のベクトル面積は曲面の形状によらずゼロになる. 証明は発散定理を使う.…

本の付加価値

本,特に専門書は書店で確認しただけではわからない価値がある.例えばプログラミング関連書籍では,随分前から掲載コードがgithubなどで公開されている.こうしたサービスは本を見ただけではわからない付加価値である.もちろん本文にその旨の掲載はあるが…

ユークリッド化

相対論的な場の理論ではミンコフスキー空間からユークリッド空間に変更して計算を行うことがある.この操作はユークリッド化とかウィック回転とか呼ばれている.混乱を避けるため,ミンコフスキー空間では"mostly minus",すなわち 計量を使うことにして,ど…

ε_(ijk) ε_(lmn)

3階反対称テンソルの積 を時折見かける.これを示すのに添え字に一つずつ数を入れて確認するのは大変である.正規直交基底 を使うと なので でよいかと思う.

3×3 余因子行列(その2)

前回の(2)式 は幾何学的な意味をもつ. は と が張る平行四辺形の面積を表すので, と を一次変換した と が張る平行四辺形の面積は,もとの平行四辺形の面積 に をかけたものである,と言える. \eqref{1} で と書き換え, を微小なベクトル にする. が張…

3×3 余因子行列(その1)

余因子行列は以前にも触れたが,ここでは3行3列の行列に限定する.余因子行列 (adjugate matrix) の転置行列である cofactor matrix は,以前にも書いたが と書ける(添え字について和をとる).今回はこの式を証明したい. 準備として,まずベクトル を使っ…

テンソルのnotation

2階テンソルの notation は本によって違う.内積は の2通りの定義がある.発散も の2通りある( は基底).回転の定義も同様.ベクトルの勾配は多くの本では であるが,一部で と定義する本もある.テンソルを扱っている本を見る場合,必ずこれらの定義を確…

ストークスの抵抗法則(その5)

前回で流れの関数が求まった. これから流速が(その2)の(4)によって得られる. 圧力は(その3)の(6), (7)によって得られる. により 積分すると, を定数として を得る. 次に流速から変形速度テンソルを求める.球座標表示で これらは球面上()ではほと…

ストークスの抵抗法則(その4)

前回に求めた ただし を解く.まず, であることから, の形に変数分離できそうである.実際 なので, は を満たす. 境界条件は,無限遠では前々回の(6)であったから, の場合には である.また\eqref{3}より, では常に となることから,球面上でも である…