誰が磁場をつくったのか?(その2)

 ストークスの定理(回転定理)によれば,閉曲線を囲む面は平面である必要はなく,どのような曲面であってもよい.前回は平面としたが,今度は図のような円筒を考える.

平面を変形したものなので,円筒左端の面は「閉じて」おり,円筒右側の面は(図では見えないが)もちろん「開いて」いる.この円筒を通り抜ける電流を考える.円筒左端の面には導線を通じて伝導電流  I が通過する.またこの円筒は左側の極板と重なっているので,極板上の電流も円筒側面を通過する.(極板上の電流は中心からふちに向かって放射状に流れる.)これですべてである.すなわち,伝導電流は存在するが変位電流は存在しない.これは「その1」のときと逆の状況である.


 極板上で極板の中心を中心とする,半径  s のリング部分を外側に向かって通過する電流を  I(s) とする.半径  s の円部分の面電荷密度は,導線から流入する電荷と,リングから出ていく電荷の差で表されるので,


 \begin{align} \sigma(t) = \frac{(I-I(s))t}{\pi s^2} \end{align}


と書ける.ここで面電荷密度が一様であるとしていたから, I-I(s)=ks^2 でなければならない( k は定数). k は, I(a)=0 であることを使うと  k=I/a^2 に決まる.すなわち  I(s)=I(1-s^2/a^2) である.よって,アンペール・マクスウェルの法則より


 \begin{align} B(2\pi s) = \mu_0(I-I(s))=\mu_0 I\frac{s^2}{a^2}, \qquad B=\frac{\mu_0 Is}{2\pi a^2}  \end{align}


を得る.これは「その1」と同じ答である.


 「その1」では変位電流によって生じた磁場を,「その2」では伝導電流によって生じた磁場を計算し,いずれも同じ磁場を得た.アンペールループを囲む面は人間が自由に選ぶことができるので,「誰が」磁場をつくったのかは人間が恣意的に選ぶことができる.つまり「誰が」という問いは本質的な意味をもたないのかもしれない.グリフィスは準哲学的な問題,と書いている.