電磁気学一般

誰が磁場をつくったのか?(その2)

ストークスの定理(回転定理)によれば,閉曲線を囲む面は平面である必要はなく,どのような曲面であってもよい.前回は平面としたが,今度は図のような円筒を考える.平面を変形したものなので,円筒左端の面は「閉じて」おり,円筒右側の面は(図では見え…

誰が磁場をつくったのか?(その1)

グリフィスの電磁気学の本に面白い問題があった.元ネタは D.J. グリフィス(著),溝田節生・坂田英明・二国徹郎・徳永英司(訳)「グリフィス 電磁気学 I」,丸善出版(2019) の問題7.35である. アンペール・マクスウェルの法則 によれば,電流 があれば…

単極誘導

単極誘導(ファラデーディスク)は深入りすると泥沼にはまる危険がある.詳しくはファラデーのパラドックスを参照.問題設定はいくつかあるが,ここでは 砂川重信,「電磁気学」物理テキストシリーズ,岩波書店(1987) に掲載されているものを挙げる. 磁石…

誰が仕事をしたのか

摩擦のない斜面に物体を置き,図のように水平方向に力 を加える.すると物体は斜面に沿って上昇する.物体を上方向に持ち上げたのは誰だろうか? 一見すると力 は水平方向であるから鉛直方向に仕事をしない.斜面は摩擦がないので垂直抗力 は斜面に垂直であ…

アブラハム-ミンコフスキー論争(メモ)

アブラハム-ミンコフスキー論争とは,物質中の電磁場の運動量をどのように定義すべきかという論争.100年以上にわたって明確な結論は出ていない.以下のメモは David J. Griffiths, "Resource Letter EM-1: Electromagnetic Momentum", Am. J. Phys. 80, 7 (…

輻射の反作用(放射の反作用)事前加速問題(メモ)

加速運動する荷電粒子が電磁波を放射するとエネルギーを失う.荷電粒子はエネルギーを失うことで運動が変化する.このときに荷電粒子が受ける力が輻射の反作用と呼ばれるもので,この力を含む運動方程式はローレンツ-アブラハムの式(アブラハム-ローレンツ…

導波管

電磁波が横波であることは高校生でも知っていることである.ところが大学で導波管を伝わる電磁波を学ぶと混乱が起きる.TE波は磁場が「縦波成分」をもち,TM波は電場が「縦波成分」をもつ.導波管内部のような特別な空間では電磁波も縦波になるのか?手元に…

静電場の回転

電荷密度 がつくる静電場は で与えられる.静電場なのでこの回転は0でなければならない. 簡単のため で考えると が0にならなければならない. だから0になるというのは早計で,これは演算子なので注意深く調べる必要がある. のときは成分ごとに計算すれば0…

導体円板上の電荷分布

導体に電荷を与えると,導体表面にのみ電荷が分布する.静電気学の初め頃に学ぶことである.しかしこれは3次元の導体について言えることであって,2次元導体や1次元導体では正しくない.2次元の導体円板に点電荷を加えていくと,点電荷が円板上でどのように…

静電気学の百科事典?

静電気学の集大成といえるような本が存在することを最近知った. E. Durand, Electrostatique, Vol I, II, III, Masson et Cie, 1964, 1966 全3巻で計1500ページ以上ある.ジャクソンの電磁気学(日本語版)でも1200ページ足らずなので,静電気学だけでこの…

面電荷密度と面電流密度

面電荷密度と面電流密度は表面上に分布する電荷密度,電流密度である.例えば 平面上に面電荷密度 の電荷が一様に分布し,他に電荷がない場合,(体積)電荷密度 は と書ける.デルタ関数が長さのマイナス1乗の次元をもつので両辺の次元は合っている. 次に …

点電荷と中性導体の間の力

グリフィス「電磁気学I」P115にこんな問題がある. 「点電荷とその近くにある帯電していない導体の間に働く力は常に引力となるか?」 たとえば導体にプラスの点電荷を近づけると,導体中のマイナス電荷が点電荷側に移動し,プラス電荷が反対側に移動するので…

棒磁石の磁化の発散

前回の話は,磁場 と の違いを説明するときにも使える.棒エレクトレット(棒電石)の代わりに棒磁石を考えればよい.円柱状で,軸方向に一様な磁化をもち,自由に動ける電荷が存在しない棒磁石を考える.磁化 しか存在しないので の回転は0になる. これか…

棒エレクトレットの分極の回転

電場 と電束密度(電気変位) の違いを説明するときに棒エレクトレット(棒電石)がしばしば登場する.棒エレクトレットは棒磁石の「電気版」である.理想的な棒エレクトレットは円柱状の物質で,軸方向に一様な分極をもつ.自由に動ける電荷が存在しない場…

電気双極子にはたらく力

電場中で電気双極子にはたらく力は で与えらえる. は双極子モーメントである.これは電磁気学の本に書かれていることであるが,この式を最初に見たときは混乱した.右辺は微分演算子がついているので位置の関数であることがわかる.しかし左辺は磁気モーメ…

楕円体の導体の表面電荷分布

楕円体の導体に電荷が与えられているとき,表面につくられる電荷分布は解析的に計算できる.グリフィスの電磁気学では導出は与えられず,結果だけが載っている.P111(原書)の脚注をみると導出は別の本にあり,"tour de force" (離れ技)が必要らしい.し…

光の屈折と反射のときの振動数

光が屈折や反射をしても振動数は変わらない.これは高校物理では理由なく書かれていることらしい.そのせいかネットにはなぜ振動数が変わらないのか?という質問を見かける.誰が考えても当たり前のことであればこういう質問は出てこないと思うので,やはり…