電場 と電束密度(電気変位) の違いを説明するときに棒エレクトレット(棒電石)がしばしば登場する.棒エレクトレットは棒磁石の「電気版」である.理想的な棒エレクトレットは円柱状の物質で,軸方向に一様な分極をもつ.自由に動ける電荷が存在しない場合,分極 しか存在しないので電束密度の発散は0になる.
これからただちに としてしまうと,エレクトレット外部では となってしまい矛盾する.電束密度の発散が0でも,回転が0であるとは限らない.
つまり分極の回転が0でなければ電束密度の回転も0にならない.しかし,棒エレクトレットは一様な分極をもつので一見すると は0になるように思える.グリフィス「電磁気学I」ではこの問題提起だけをして,解答は読者に任せる,と書いてある.
エレクトレット内部では分極は一様なので明らかに回転は0である.0でない回転をもつとしたらエレクトレットの表面部分しかありえない.エレクトレットを半径 ,長さ の円柱とし,分極の方向を 軸方向として分極の大きさを と書くと,任意の位置の分極は
と書ける.ここで円柱座標 を使った. が 成分しかもたず, によらないことから,
となる.つまりエレクトレットの側面部で0でない(大きさ無限大の)回転をもつことになる.