ビットコイン・スタンダード

S・アモウズ (著),J・モーリス(企画),練木照子(訳),「ビットコイン・スタンダード」ミネルヴァ書房 (2021)


 タイトルは金本位制を意味するゴールド・スタンダードになぞらえたものと思われる.


 アマゾン書評では高評価が並んでいるが,個人的には期待外れである.前半がとにかくケインズや(不換紙幣としての)法定通貨の酷評ばかりである.序文には,「本書はビットコインの宣伝でもないし,ビットコインの購入をすすめるものでもない」とあるので中立な立場からの評論を期待したのだが,あまりにも法定通貨の批判ばかりで読み続けるのが苦痛になるほどである.(現代アートを批判している部分もあるが,はっきり言って余計である.)私はビットコイン肯定派だが,否定的な読者だったらこれではビットコインについてますます身構えてしまうのではないだろうか.ビットコインのメリットを強調したいがために,法定通貨のデメリットをチェリーピッキングのごとく列挙しているようにみえる.


 他にも,同じ主張が何度もくり返されることが多く,かなり冗長に感じられる.後半のビットコインに関することも,原書が書かれた時期が2017年であることもあってやや古く感じることもある.


 ただ社会がブロックチェーンを過大評価しているという意見には賛同できる.ブロックチェーンは非中央集権化を最大の目的としているため,そうである必要がない場合にはきわめて効率の悪いデータベースである.なぜ多くの企業がブロックチェーンに関心をもつのか,今一つ理解できない.


 もともと学術書に近い立ち位置でビットコインを論じた本だと思って読んだのが間違いだったのかもしれない.ビットコインのすごさをとことん味わいたいと思う人のための本.