棒磁石の磁化の発散

 前回の話は,磁場  \mathbf{B} \mathbf{H} の違いを説明するときにも使える.棒エレクトレット(棒電石)の代わりに棒磁石を考えればよい.円柱状で,軸方向に一様な磁化をもち,自由に動ける電荷が存在しない棒磁石を考える.磁化  \mathbf{M} しか存在しないので  \mathbf{H} の回転は0になる.


 \begin{align} \boldsymbol{\nabla}\times\mathbf{H}=0 \end{align}


これからただちに  \mathbf{H}=0 としてしまうと,棒磁石外部では  \mathbf{B}=0 となってしまい矛盾する. \mathbf{H} の回転が0でも,発散が0であるとは限らない.


 \begin{align} \boldsymbol{\nabla}\cdot\mathbf{H}=\frac{1}{\mu_0}  \boldsymbol{\nabla}\cdot\mathbf{B} -  \boldsymbol{\nabla}\cdot\mathbf{M} =  -\boldsymbol{\nabla}\cdot\mathbf{M}   \end{align}


つまり磁化の発散が0でなければ  \mathbf{H} の発散も0にならない.棒磁石は一様な磁化をもつので一見すると  \boldsymbol{\nabla}\cdot\mathbf{M} は0になるように思える.


 棒磁石内部では磁化は一様なので明らかに発散は0である.0でない発散をもつとしたら表面部分しかありえない.棒磁石を半径  a,長さ  L の円柱とし,磁化の方向を  z 軸方向として磁化の大きさを  M_0 と書くと,任意の位置の磁化は


 \begin{align} \mathbf{M} = M_0 \, \theta(z) \theta(L-z) \theta(a-\rho) \hat{\mathbf{z}} \end{align}


と書ける.ここで円柱座標  (\rho, \phi, z) を使った.これから


 \begin{align} \boldsymbol{\nabla}\cdot \mathbf{M} = \frac{\partial M_z}{\partial z}  = M_0 \, [\delta(z) - \delta(L-z)] \theta(a-\rho)  \end{align}


となる.つまり棒磁石の底面部で0でない発散をもつことになる.棒磁石(ソレノイド)が無限に長い場合はこの影響がなくなるので発散は0になる.つまり  \mathbf{H} に対してもアンペールの法則を使って求めることができる.