誰が磁場をつくったのか?(その1)

 グリフィスの電磁気学の本に面白い問題があった.元ネタは


D.J. グリフィス(著),溝田節生・坂田英明・二国徹郎・徳永英司(訳)「グリフィス 電磁気学 I」,丸善出版(2019)


の問題7.35である.


 アンペール・マクスウェルの法則


 \begin{align}  \oint \mathbf{B}\cdot d\mathbf{l} = \mu_0 I + \mu_0 \epsilon_0 \int \frac{\partial \mathbf{E}}{\partial t}\cdot d\mathbf{S} \end{align}


によれば,電流  I があれば周りに磁場が生じるし,変位電流  \epsilon_0 (\partial \mathbf{E}/\partial t) があっても周りに磁場ができる.(変位電流と区別するため,電流  I を伝導電流と呼ぶことにする.)では,伝導電流と変位電流がともに存在する場合に,どちらが磁場をつくったのかを区別することができるだろうか?


 以下のような平行板コンデンサーを考える.極板は半径  a の円板で,極板間距離を  d とする.もちろん  d\ll a であるとする.極板の中心に導線がつないであり,導線を通じて電流が極板に流れる状況を考える.すなわちコンデンサーが充電されている状態である.仮定として,極板に蓄積される面電荷密度は一様(場所によらない)とする.

 求めたいのは極板間にできる磁場である.そこで「アンペールループ」として,極板の中心軸を中心とする半径  s の円を考える(図の破線の円).このループが囲む平面内には伝導電流は存在せず,変位電流のみが存在する.時刻  t で極板に溜まった電荷 Q(t) とすると,面電荷密度は  \sigma = Q(t)/\pi a^2 である.また導線の電流を  I とすると, Q(t)=It である.これにより極板間の電場は,


 \begin{align} \mathbf{E} = \frac{\sigma(t)}{\epsilon_0}\hat{\mathbf{z}} = \frac{It}{\epsilon_0 \pi a^2}\hat{\mathbf{z}} \end{align}


となる. \hat{\mathbf{z}} は極板の中心軸方向の単位ベクトルである.アンペールループが囲む平面を貫く変位電流は


 \begin{align} I_d = \epsilon_0 \frac{dE}{dt}(\pi s^2)= I\frac{s^2}{a^2} \end{align}


なので,アンペール・マクスウェルの法則より  B(2\pi s) = \mu_0 I_d,すなわち


  \begin{align} B=\frac{\mu_0 I s}{2\pi a^2} \end{align}


となる(向きは円周方向).