単極誘導

 単極誘導(ファラデーディスク)は深入りすると泥沼にはまる危険がある.詳しくはファラデーのパラドックスを参照.問題設定はいくつかあるが,ここでは


砂川重信,「電磁気学」物理テキストシリーズ,岩波書店(1987)


に掲載されているものを挙げる.



 磁石の上に金属円板を置き,円板の中心と縁を導線でつなぐ.円板を中心軸のまわりに一定角速度  \omega で回転させると,導線に電流が流れる.簡単のため円板を貫く磁場  \mathbf{B} は一様であるとする.電流が流れる理由は円板上の点電荷ローレンツ力を受けるためで,中心から距離  r 離れた場所の点電荷は回転によって  r\omega の速度をもつ.この速度と磁場の方向は直交しており,ローレンツ力によって点電荷は円板の縁方向に単位電荷あたり  \mathbf{v}\times\mathbf{B} = r\omega B \hat{\mathbf{r}} の力を受ける.円板の半径にわたって積分すると,起電力


 \begin{align} \mathcal{E} = \int_0^a d\mathbf{r}\cdot r\omega B\hat{\mathbf{r}} = \frac{1}{2}a^2\omega  B\end{align}


が求まる.導線の抵抗を  R とすれば,導線を流れる電流は  a^2\omega B/2R になる.


 ここまでは多くの本に書かれているが,まったく問題がないわけではない.起電力を計算するのに半径方向に積分したが,実際の電流は円板全体に広がるので「閉回路が磁束を横切る」の意味がはっきりしない.


 上記の本では,次に円板を止めて磁石を回転させた場合にどうなるかを記している.この場合には導線に電流は流れない.磁石が回転しても磁力線は回転せず,磁力線は空間に固定されたものであるということである.説明はこれで終わっているが,ここで疑問が残るのは,磁石とともに回転する座標系でも電流は流れないのだろうか?磁石とともに回転する座標系では円板が回転するので,上記の計算のように電流が流れるような気がするが,よく考えてみると少し状況が異なる.この場合には円板だけでなく導線も回転してしまう.そうすると円板上の電荷だけでなく,導線内の電荷ローレンツ力を受けて起電力が発生する.もしこの二つの起電力が完全に相殺すれば電流は流れず,磁石が回転する座標系の場合と同じ結果を得ることになる.残念ながらこのことを説明している文献を知らないので真偽は不明である.