ユークリッド化

 相対論的な場の理論ではミンコフスキー空間からユークリッド空間に変更して計算を行うことがある.この操作はユークリッド化とかウィック回転とか呼ばれている.混乱を避けるため,ミンコフスキー空間では"mostly minus",すなわち (+---) 計量を使うことにして,どのようにユークリッド化されるのか,いくつか本を調べてみた.ミンコフスキー空間の時間変数を  x_0, ユークリッド空間の時間変数を  x_4 とする.また,4元運動量の時間成分をそれぞれ  p_0, p_4 とする.


  x_0 = ix_4,\ p_0=ip_4 : V.Pナイア, 阿部泰裕(訳), 磯暁(訳)「場の量子論(基礎編)」(シュプリンガージャパン, 2009) P57


  x_0 = -ix_4,\ p_0=ip_4 : M.S.スワンソン, 青山秀明(訳), 川村浩之(訳), 和田信也(訳)「経路積分法」(吉岡書店, 1996) P240


 x_0 = -ix_4,\ p_0=-ip_4: Y.Makeenko, "Methods of Contemporary Gauge Theory", (Cambridge, 2002) P6


符号の取りかたが本によって見事にバラバラである.時間変数については「 -i\epsilon 処方」と呼ばれているように, x_0=-ix_4 としなければならないと思っていたが,そうでない場合もあって驚いた.


 運度量については, p_0=ip_4 とすると,複素 p_0平面において実軸上の積分ファインマン伝播関数の極をよけて虚数軸に移動させることができるので都合がよい.しかし, p_\mu x^\mu = p_0 x^0 -\mathbf{p}\cdot\mathbf{x} \to p_4 x_4 - \mathbf{p}\cdot\mathbf{x}=p_\mu x_\mu となり,ユークリッド化したにもかかわらず,時間と空間の間に負号がつく.このためフーリエ変換するときにはかなりの注意がいる.一方, p_0=-ip_4 とすれば  p_\mu x^\mu = p_0 x^0 -\mathbf{p}\cdot\mathbf{x} \to -p_4 x_4 - \mathbf{p}\cdot\mathbf{x}=-p_\mu x_\mu となり都合がよいが,ファインマン伝播関数の極を避けるために  p_0 積分を考えるときは

 \begin{align} \int_{-\infty}^{+\infty} dp_0 \to i \int_{-\infty}^{+\infty} dp_4 \end{align}

としなければならない(実際Makeenkoの本ではこうしている).どちらも一長一短な気がする.