AIでは行列と2階テンソルはほぼ同じ意味で使われているが,物理ではある種の座標変換で決まった変換のしかたをするものをテンソルと呼んでいる.その根底にあるのはおそらく,テンソルは座標の取り方によらない実体である,ということである.ベクトルも同様で,一般にベクトル は成分
と基底
を使って
などと表せる.成分 は座標の取り方によるが,ベクトル
は座標とは無関係に「存在」すると考える.テンソル
も基底で展開すれば
と書ける( は直積).そのため,テンソルの性質を示すには成分
を使うのではなく,テンソルそのものを使うほうが一般性がある.例えばテンソルの転置を
などと定義すると成分を使っているのでよろしくない.テンソルそのものを使って定義するには,ベクトルの内積
を使って
によって転置を定義する.テンソルのトレースや行列式も成分表示をしないで定義できる。物理では相対論と連続体力学でこうした考え方が重視されているようである.複数の座標系を使う分野では便利なのであろう.