mostly plus と mostly minus

 相対論の共変形式において,ミンコフスキー計量の対角部を


 \begin{align} (-1, +1, +1, +1) \end{align}


とするものを "mostly plus" とか "East coast convention" とか他にもWikipediaによると色々呼ばれている.逆に


 \begin{align} (+1, -1, -1, -1) \end{align}


とするものを "mostly minus" とか "West coast convention" などという.East coast convention はシュウィンガー(ハーバード大)が使っていて,West coast convention はファインマン(カリフォルニア工科大)が使っていたから,という噂があるが真偽はわからない.

 ネットのいくつかの意見を読むと,mostly plus のほうが非共変形式やユークリッド計量との関係において相性がよいのでこちらを使うべき,という意見が多いようにみえる.ただ日本語の場の量子論の入門書をみると,mostly minus のほうが多いような気がするが,世界的にはどちらがメジャーなのかわからない.自分がどちらの定義を使うかは,合理性よりも自分の属するコミュニティによって決まるほうが多いかもしれない(素粒子現象論は mostly minus,重力理論は mostly plus,とか).こんなのは符号の違いだけだろうと思うかもしれないが,ディラック方程式に現れるガンマ行列の定義が違ってくるなど,微妙な点がいくつかある.

 以前読んでいた,太田浩一氏の「電磁気学の基礎I, II」(シュプリンガージャパン)では mostly plus が採用されていたが,その前に出版されていた丸善版では mostly minus だった.頭のよい人達はどちらの定義も自由に使いこなしているのだろうか?