電磁気学の基礎 I (その35) 8.8, 8.9, 8.10

電磁気学の基礎 I」太田浩一 著 (シュプリンガージャパン) の読書メモ


 8.8節.P191の最初に,ベクトルポテンシャルは(8.9)の  1/r を湯川関数で置き換えればよい,とある.しかしこのような単純な置き換えだと,指数関数にも微分演算子がかかる理由がわからないのではないだろうか.そこでP190の  \mathbf{A}(\mathbf{x}) の式に戻って展開すると


 \begin{align}
 \frac{e^{-\kappa|\mathbf{x}-\mathbf{x}'|}} {|\mathbf{x}-\mathbf{x}'|} \cong \left( \frac{1}{r}+\frac{(1+\kappa r)\mathbf{x}\cdot\mathbf{x}'}{r^3}\right) e^{-\kappa r}
\end{align}


になる.第1項は角度積分により消え,第2項は8.1節の計算と同じで,単に  (1+\kappa r)e^{-\kappa r} の因子がつく.そこで


 \begin{align}
\pmb{\nabla}\frac{e^{-\kappa r}}{r}=-e^{-\kappa r}\frac{\mathbf{x}}{r^3} \left(1+\kappa r\right)
\end{align}


であるからP191の最初の式を得る.


 磁場を計算するにはその下の微分公式を使う.実際に計算してみると,原点を除いて


 \begin{align}
   \partial_i \partial_j \pmb{\nabla}\frac{e^{-\kappa r}}{r} 
   &=  e^{-\kappa r} \left\{ \frac{3x_i x_j}{r^5}  +\frac{3\kappa x_i x_j}{r^4}
    + \frac{\kappa^2 x_i x_j -\delta_{ij}}{r^3} - \frac{\kappa \delta_{ij}}{r^2}\right\}
\end{align}


になる.これを変形して  Y(x), Z(x) で表すのは単純な計算だがけっこう大変である.


  r として地球半径  r=R_\oplus とし, \mathbf{x} を赤道上に取ると, \mathbf{m} は極方向を向いているので, \mathbf{m}\cdot\mathbf{x}=0 になり,磁場の式の第2項と第1項の比は


 \begin{align}
  \frac{2Y(\kappa R_\oplus)}{Z(\kappa R_\oplus)}
  =\frac{2}{1+3/(\kappa R_\oplus)+3/(\kappa R_\oplus)^2}
  = \frac{(2/3)\kappa^2 R_\oplus^2}{1+\kappa R_\oplus + \kappa^2 R_\oplus/3}
\end{align}


になる.光子質量の上限として1968年の値が載っているが,現在の上限値は3桁ほど小さいようである.


 8.9節.磁場中の磁気モーメントのポテンシャルエネルギーは  V=-\mathbf{m}\cdot\mathbf{B} で,電場中の電気双極子のポテンシャルエネルギー  V=-\mathbf{p}\cdot\mathbf{E} と同じ形である.一方,磁場中の電流のエネルギー(8.44)も電場中の電荷のエネルギー(3.5)に似た式だが,負号がつく.


 8.10節.(8.48)の左の式は  \Phi_1=L_{11}I_1+L_{12}I_2 の誤り.(8.47)から


 \begin{align} V_{11}=-\frac{1}{2}I_1 \Phi_1 \end{align}


であるから,P196の最初の式は


 \begin{align} V=-\frac{1}{2}( I_1 \Phi_1 +I_2 \Phi_2) \end{align}


の誤り.その下の式  V_{12}=-I_1 \Phi_{12} は2重の数えすぎがないので正しいように見えるが,(8.50)で  V を定義しているので  V_{12}=-I_1 \Phi_{12}/2 が正しいはずである. (2020/5/3 削除。コメント参照。)