電磁気学の基礎 I (その14) 3.6

電磁気学の基礎 I」太田浩一 著 (シュプリンガージャパン) の読書メモ


 電気双極子層は電気二重層として覚えていた.ここでも2枚の電荷面の間の距離を0にする極限を取り,ある種の理想化を行っている.(3.40)は(3.32)を双極子層がつくる面で積分したものである.これは立体角を使って(3.41)に書き換えられる.立体角にしかよらないというのは面白い.双極子層に十分近い観測点の場合,正電荷側の観測点の立体角は負になり, \Omega_1=-2\pi である.逆に負電荷側の観測点の立体角は  \Omega_2=2\pi である.


 (3.42)の一つ下の等式は  (\mathbf{A}\times\mathbf{B})\times\mathbf{C}=\mathbf{B}\mathbf{A}\cdot\mathbf{C}-\mathbf{A}\mathbf{B}\cdot\mathbf{C} を使っている.微分 \mathbf{x} だけにかかる.右辺第一項は(2.38)から  -4\pi\mathbf{n}' \delta(\mathbf{x}'-\mathbf{x}) である.これを面積分すると


 \begin{align} -4\pi\int dS' \mathbf{n}(\mathbf{x}') \delta(\mathbf{x}'-\mathbf{x}) = -4\pi \mathbf{n}(\mathbf{x}) \delta(n) \end{align}


になる.この式はわかりにくいが,左辺は面積分であるから面に垂直な方向についてはデルタ関数が残り,それが  \delta(n) である. n は面に垂直な方向の座標変数であり, n=0 が面上に対応する.


 (3.42)の二つ下の等式は(A.30)を使った,とあるが,これは回転定理の一種である.回転定理は演算子の間の等式


 \begin{align}
 \int dS \mathbf{n}\times\pmb{\nabla}=\oint d\mathbf{x}
\end{align}


についても成り立つ.これから(3.40)の勾配に負号をつけたものは(3.43)になる.


 双極子層上における電荷密度は, 微小な  l に関して  n=l/2 +\sigma の層, n=-l/2 -\sigma の層を置くと


 \begin{align}
  \varrho_\tau(n)=\sigma\delta\left(n-\frac{l}{2}\right)-\sigma\delta\left(n+\frac{l}{2}\right)
  =-\sigma l\delta'(n)=-\tau\delta'(n)
\end{align}


であるから, ガウスの法則は


 \begin{align}
  \frac{dE(n)}{dn}=\frac{E\left(n+\frac{l}{2}\right)-E\left(n-\frac{l}{2}\right)}{l}=E'(n)=\frac{1}{\epsilon_0}\varrho_\tau(n)=-\frac{\tau}{\epsilon_0}\delta'(n)
\end{align}


となり, これから


 \begin{align}
  E(n)=-\frac{\tau}{\epsilon_0}\delta(n)
\end{align}


となる.


 半径  a の球面上に双極子モーメントが面密度  \tau で分布していて,双極子の方向が外向き,すなわち面の内側にマイナス電荷,外側にプラス電荷が帯電している場合を考える.観測点が球外部のとき,観測点から球への包絡面が球と接する円によって球面を2分する.包絡面とは観測点から球への接線群がつくる円錐面のことである.2分された球面のうち,観測点に近い側の球面はプラス,観測点から遠い側の球面はマイナス電荷の面を見ることになるので,立体角は同じで符号だけが異なる.つまり電位  \phi はゼロである.観測点が球内部にある場合,全立体角  4\pi でマイナス電荷面を見ることになるので,電位は  \phi=-\tau/\epsilon_0 になる.これは電気双極子層のつくる電位が立体角だけによるという性質からきている.


 このことを一般化すると,任意の閉曲面がつくる電気双極子層に対して,閉曲面の外側の電位は常に相殺されて0になり,閉曲面の内側の電位はつねに  \pm\tau/\epsilon_0 になる.