輻射の反作用(放射の反作用)事前加速問題(メモ)

 加速運動する荷電粒子が電磁波を放射するとエネルギーを失う.荷電粒子はエネルギーを失うことで運動が変化する.このときに荷電粒子が受ける力が輻射の反作用と呼ばれるもので,この力を含む運動方程式ローレンツ-アブラハムの式(アブラハム-ローレンツの式)と呼ばれている.この力が作用していてさらに外力がある場合には,運動方程式の解として外力を加える前に荷電粒子が外力を感じてしまうという「事前加速問題」があることが知られている.


 ローレンツ-アブラハムの式は非相対論的極限で成り立つ式であり,これを相対論的領域でも適用できるようにしたものがローレンツ-アブラハム-ディラックの式(LAD方程式)である.LAD方程式でも事前加速問題は存在する.この事前加速問題の解決策は F. Rohrlich が次のレビューで紹介している.


F. Rohrlich, "The dynamics of a charged sphere and the electron", Am. J. Phys. 65, 1051 (1997)


LAD方程式を導出する際の,時間についての展開に問題があり,これを注意深く行えば事前加速となる解は出てこない.詳細は以下の本に掲載されている.


Arthur D. Yaghjian, "Relativistic Dynamics of a Charged Sphere", 2nd ed., Springer (2006)

導波管

 電磁波が横波であることは高校生でも知っていることである.ところが大学で導波管を伝わる電磁波を学ぶと混乱が起きる.TE波は磁場が「縦波成分」をもち,TM波は電場が「縦波成分」をもつ.導波管内部のような特別な空間では電磁波も縦波になるのか?手元にある電磁気学の本にはこのことを明確に説明しているものはない.

 導波管内の電磁波は自由空間の電磁波とは異なり,非線形分散関係をもつ.これが電磁波の縦波成分を許すのだろうか?あるいは導波管内の電磁波は管内をジグザグに進むので,波数ベクトルは管の方向を向いていない.TE波で考えると,波数ベクトルに直角な磁場も管に対して斜めに向くので管方向の成分をもつことになる.つまり「縦成分」というのは管の方向に対して述べているのであって,波数ベクトルに対する縦成分という意味ではない,ということなのか?

静電場の回転

 電荷密度  \rho がつくる静電場は


 \begin{align} \mathbf{E}(\mathbf{r})= \int d^3r' \frac{\rho(\mathbf{r}')(\mathbf{r}-\mathbf{r'})}{|\mathbf{r}-\mathbf{r}'|^{3}} \end{align}


で与えられる.静電場なのでこの回転は0でなければならない.


 \begin{align} \pmb{\nabla}\times\mathbf{E}(\mathbf{r})= \int d^3r' \, \rho(\mathbf{r}') \left( \pmb{\nabla}\times\frac{\mathbf{r}-\mathbf{r'}}{|\mathbf{r}-\mathbf{r}'|^{3}} \right) \end{align}


簡単のため  \mathbf{r}'=0 で考えると


 \begin{align} \pmb{\nabla}\times\frac{\mathbf{r}} {r^{3}}=-  \pmb{\nabla}\times  \pmb{\nabla}\frac{1}{r} \tag{1} \label{1} \end{align}


が0にならなければならない. \pmb{\nabla}\times\pmb{\nabla} だから0になるというのは早計で,これは演算子なので注意深く調べる必要がある. r\neq 0 のときは成分ごとに計算すれば0になることがすぐにわかる.問題は  r=0 の場合で,例えば


 \begin{align}  -\nabla^2 \frac{1}{r} = 4\pi \delta(\mathbf{r}) \tag{2} \label{2} \end{align}


であるように,0でない可能性がある.これを確かめるには,\eqref{2}の導出と同様に,\eqref{1}を原点のまわりに体積積分すればよい.


 \begin{align} \int d^3r \pmb{\nabla}\times\frac{\mathbf{r}} {r^{3}} \end{align}


もしこれが0でない値を取れば, r=0デルタ関数的な寄与があることを意味する.この積分は発散定理を使って


 \begin{align} \int d^3r \pmb{\nabla}\times\frac{\mathbf{r}} {r^{3}} = \int dS \mathbf{n}\times \frac{\mathbf{r}} {r^{3}} \tag{3} \label{3} \end{align}


と面積分にすることができる. \mathbf{n}=\hat{\mathbf{r}} (単位動径ベクトル)とできるので,右辺は0である.よって左辺も0であり,\eqref{1} は  r=0 の場合も0であることがわかる.


\eqref{3} を示すには  \mathbf{A}\times\mathbf{c} に発散定理を使う.


 \begin{align} \int d^3r \pmb{\nabla}\cdot (\mathbf{A}\times\mathbf{c}) = \int dS \mathbf{n}\cdot (\mathbf{A}\times\mathbf{c}) \end{align}


 \mathbf{c} を定数ベクトルとすると  \pmb{\nabla}\cdot (\mathbf{A}\times\mathbf{c}) = \mathbf{c}\cdot(\pmb{\nabla}\times\mathbf{A}) であり,また   \mathbf{n}\cdot (\mathbf{A}\times\mathbf{c}) =\mathbf{c}\cdot(\mathbf{n}\times\mathbf{A}) であるので


 \begin{align} \mathbf{c}\cdot \int d^3r \pmb{\nabla}\times\mathbf{A} = \mathbf{c}\cdot\int dS \mathbf{n}\times \mathbf{A} \end{align}


により\eqref{3}を得る.

導体円板上の電荷分布

導体に電荷を与えると,導体表面にのみ電荷が分布する.静電気学の初め頃に学ぶことである.しかしこれは3次元の導体について言えることであって,2次元導体や1次元導体では正しくない.2次元の導体円板に点電荷を加えていくと,点電荷が円板上でどのように分布するかという問題は1980年代から知られている.(数学ではこうした問題が一般化され,フェケテ問題などと呼ばれている.)同じ大きさの点電荷を1個ずつ円板に加えていくと,11個までは円板の周上に電荷が等間隔に分布するが,12個になったところで11個が円周上,残りの1個は円の中心にきたほうがエネルギーが低くなる.電荷が80個までの数値計算の結果が以下の論文に掲載されている.


Kari J Nurmela, "Minimum-energy point charge configurations on a circular disk", J. Phys. A. Math. Gen. 31 (1998) 1035.


以下はこの結果である.電荷が12~16個までは下図のように中心に1個の電荷を配置したほうがエネルギーが下がる.



17個になると中心付近に電荷が2個くる.



19個では中心付近に3個,22個では中心付近に4個となり,さらに5個,6個と続く.



30個になると中心付近に7角形,とはならず,下図のようになる.



さらに電荷を増やしていくと



となる.

本の体裁

 大学初年級の物理の本はなぜか体裁(見栄え)の悪いものが多い.英語の本と比べるとよくわかる.わかりやすく書かれているものでも,体裁が悪いために読みづらくなっているものもある.個人的な印象ではスペース(空白部分)の足りなさと図の小ささ(少なさ)が原因である.スペースが少なかったり図が小さい(少ない)のは紙数を減らして価格を下げる意味もあるのだろうが,結局それによって本の魅力が大きく損なわれているように感じる.それに比べると高校生向けの参考書は体裁が良いものが多く,スペースが少なくてもレイアウトが工夫されていたりして読みやすい.またページ数の多い本は薄い紙を使うなどして開きやすくなっている.高校生向けの参考書は競合が多くて差別化しないと売れないということもあるのだろうが,大学生向けの本も少しは見習ってほしいものである.

静電気学の百科事典?

 静電気学の集大成といえるような本が存在することを最近知った.


E. Durand, Electrostatique, Vol I, II, III, Masson et Cie, 1964, 1966


全3巻で計1500ページ以上ある.ジャクソンの電磁気学(日本語版)でも1200ページ足らずなので,静電気学だけでこのボリュームは驚くしかない.残念ながら中身を見たことがないのだが,インターネットアーカイブに置いてあるので「貸出」が可能なのかもしれない.表紙を見ると第1巻が基礎,第2巻が導体,第3巻が誘電体となっている.タイトルからみてわかる通りフランス語であり,英語版を探したが存在しないようである.

ベクトル面積

 ベクトル面積(vector area)という量がある.英語版Wikipediaによると,面積分によって


 \begin{align} \mathbf{S}=\int d\mathbf{S} = \int \mathbf{n}\; dS \label{1} \tag{1} \end{align}


と定義される. \mathbf{n} は面上の単位法線ベクトル.日本語Wikipediaは現時点では存在しない.


 閉曲面のベクトル面積は曲面の形状によらずゼロになる.


 \begin{align} \oint d\mathbf{S} = 0 \label{2} \tag{2} \end{align}


証明は発散定理を使う.


 \begin{align} \int \pmb{\nabla}\cdot \mathbf{v} \, dV = \oint \mathbf{v}\cdot d\mathbf{S} \end{align}


 \mathbf{v} が定数ベクトルの場合,左辺は0になるので


 \begin{align} \mathbf{v}\cdot \oint d\mathbf{S} =0 \end{align}


により\eqref{2}を得る.


 閉曲面を2つの開いた曲面に分割すると,この2つの曲面は面の縁を共有する.


 \begin{align} \oint d\mathbf{S} = \int_{S_1} d\mathbf{S}+\int_{S_2} d\mathbf{S} =0 \end{align}


 S_2 の単位法線ベクトルの向きをひっくり返して S_1の単位法線ベクトルと同じ向きにすると,


 \begin{align} \int_{S_1} d\mathbf{S}=\int_{S_2} d\mathbf{S} \end{align}


となる.すなわち面の縁が同じで,面の「向き」も同じあれば曲面の形状に関係なく,ベクトル面積は同一の値になる.


 次に,開いた曲面の縁の部分である閉曲線を  C とすると, C 上の線積分について


 \begin{align} \mathbf{S}=\frac{1}{2} \oint_C \mathbf{r}\times d\mathbf{l} \label{3} \tag{3} \end{align}


である.下図のように, \mathbf{r}\times d\mathbf{l}/2 は原点を頂点とし,底辺を  d\mathbf{l} とする微小三角形の面積である.

これを C上で線積分すれば,円錐ような形の側面部分のベクトル面積が得られ,これは Sと縁を共有するから Sのベクトル面積に等しい.すなわち \eqref{3} を得る.


 さらに,定数ベクトル  \mathbf{c} に対して


 \begin{align} \mathbf{S}\times \mathbf{c} = \oint_C (\mathbf{c}\cdot\mathbf{r})d\mathbf{l} \label{4} \tag{4} \end{align}


が成り立つ.証明はストークスの定理を使う.


 \begin{align} \int (\pmb{\nabla}\times \mathbf{v}) \cdot d\mathbf{S} = \oint \mathbf{v}\cdot d\mathbf{l} \end{align}


 \mathbf{v} として定数ベクトル  \mathbf{k}スカラー関数  f の積  \mathbf{v}=\mathbf{k}f とおく.


 \begin{align} \pmb{\nabla}\times(\mathbf{k}f)=f\pmb{\nabla}\times\mathbf{k}-\mathbf{k}\times\pmb{\nabla}f =-\mathbf{k}\times\pmb{\nabla}f \end{align}


これからストークスの定理


 \begin{align} -\int (\mathbf{k}\times\pmb{\nabla}f)  \cdot d\mathbf{S} = \oint f\mathbf{k}\cdot d\mathbf{l} \end{align}


となるが,左辺はスカラー三重積なので


 \begin{align} -\int \mathbf{k}\cdot(\pmb{\nabla}f  \times d\mathbf{S}) = \oint f\mathbf{k}\cdot d\mathbf{l} \end{align}


となり,定数 \mathbf{k}積分から外して


 \begin{align} -\int \pmb{\nabla}f  \times d\mathbf{S} = \oint f\, d\mathbf{l} \end{align}


が成り立つ.ここで  f として  f=\mathbf{c}\cdot\mathbf{r} とすると


 \begin{align} \pmb{\nabla}(\mathbf{c}\cdot\mathbf{r})=\mathbf{c}\times(\pmb{\nabla}\times\mathbf{r})+(\mathbf{c}\cdot\pmb{\nabla})\mathbf{r}=(\mathbf{c}\cdot\pmb{\nabla})\mathbf{r}=\mathbf{c} \end{align}


なので


 \begin{align} \oint_C (\mathbf{c}\cdot\mathbf{r})d\mathbf{l} = -\int \mathbf{c}\times d\mathbf{S} = -\mathbf{c}\times\int d\mathbf{S} = -\mathbf{c}\times\mathbf{S}=\mathbf{S}\times\mathbf{c} \end{align}


により\eqref{4}を得る.