誘電体の熱力学的関係式

 5.6節の補足.別の本を探していたところ,以下が参考になった.

L.D. Landau, E.M. Lifshitz, "Electrodynamics of Continuous Media", (Pergamon Press 1960)

インターネットアーカイブで全文が読める.以下,この本をLLと略す.LLではCGSガウス単位系を使っているが,ここではSIに直している.


 (5.44)を導く部分はLLのP47, 10節に書かれている.(5.44)の下で一般化した場合を考えたが,それはLLで書かれているものと同じである.そして,全エネルギー密度をLLでは


 \begin{align}
  d u = T \delta s + \zeta d\rho +  \mathbf{E}\cdot d \mathbf{D}
\end{align}


とし (\rho は質量密度, \zeta は単位質量あたりの化学ポテンシャル),ヘルムホルツエネルギーは


 \begin{align}
  d f = -s \delta T + \zeta d\rho +\mathbf{E}\cdot d \mathbf{D}
\end{align}


としている.(これらの式に体積微分  dV の項がない理由として,電場中では物体が不均一になり,体積はもはや状態を特徴づける量ではないから,と書かれている.)これが(5.42)に相当するので,やはり(5.42)を  du と書くのは誤解を与えるのではないだろうか.


 LLではさらにルジャンドル変換


 \begin{align}
  \tilde{u} &= u- \mathbf{E}\cdot\mathbf{D},\quad
   \tilde{f} = f - \mathbf{E}\cdot\mathbf{D}
\end{align}


を行い,


 \begin{align}
  \tilde{u} &=  T \delta s + \zeta d\rho -  \mathbf{D}\cdot d \mathbf{E},\quad
   \tilde{f} = -s \delta T + \zeta d\rho -\mathbf{D}\cdot d \mathbf{E}
\end{align}


を求めている. f \tilde{f} は,それぞれ電荷が一定,電位が一定のときの等温変化に対して極小になることが示されている.応用の場面がわからないと書いたが,電歪,結晶や流体の誘電的性質,圧電効果の説明にこれらの式が使われている.